4月9日中日ー巨人戦での巨人・ビヤヌエバ選手による「危険なスライディング」が、ニュースやSNSなどで話題となっています。
ザーッとそれらに目を通すと様々な意見があり、個人的に気になったのは「MLBでは当たり前」「MLBでも禁止されたはず」という相反する意見。
そんなもん関係ねぇ!ここは日本だ!
というのはごもっともですが、まぁでも気になるじゃないですか。そこらへんの事実確認といいますか、背景を知らないことにはそこに紐づく意見も理解できませんし……。
ということで、今回は日米セカンドコリジョン(併殺崩しを狙ったスライディング)の違いを確認していこうと思います。
問題となったプレー
ヒヤッとするプレーですね。動画にはありませんが、当のビヤヌエバ選手は困惑気味で、何を騒いでるんだ?と言わんばかりの態度でして……それが気になった方も多かったようです。
で、それもあってか「MLBでは普通」「MLBでも禁止」この対立が生まれたと……
では、そのMLBではどうなっているかを見ていきたいと思います。
MLBの場合
MLBではNPBよりもひと足早く、2016年から危険スライディングを規制するルールが導入されています。
その背景には、日本なんか目じゃないレベルのとんでもスライディングが繰り返され、怪我人が相次いだことがあります。日本から海を渡った選手も何人かその餌食となりました……。
そら規制される。と、そんな感想しか浮かんできません。
自分だったら絶対セカンドには立ちたくありませんね……。
新しいスライディングルール
16年から導入された新ルールはOfficial Baseball Rulesの規則6.01(j)の綺麗なスライディングを定める規則です。
以下原文。
If a runner does not engage in a bona fide slide, and initiates (or attempts to make) contact with the fielder for the purpose of breaking up a double play, he should be called for interference under this Rule 6.01. A “bona fide slide” for purposes of Rule 6.01 occurs when the runner:
- begins his slide (i.e., makes contact with the ground) before reaching the base;
- is able and attempts to reach the base with his hand or foot;
- is able and attempts to remain on the base (except home plate) after completion of the slide; and
- slides within reach of the base without changing his pathway for the purpose of initiating contact with a fielder.
翻訳した物を以下に
ランナーが善意のスライドに従事せず、ダブルプレイを分割する目的で野手との接触を開始する(またはしようとする)場合、彼はこの規則6.01に基づいて妨害を求められるべきである。次の場合、規則6.01の目的のための「本物のスライド」が発生する。
- 基地に着く前に彼の滑りを開始する(すなわち、地面と接触する)。
- 彼の手または足で基地に到達しようとしている。
- スライドの完了後、ベース(ホームプレートを除く)上に留まることができ、それを試みる。そして
- 野手との接触を開始する目的で、進路を変えずに基地の手の届く範囲内で滑動する。
言葉だけじゃわかりにくいと思うのでMLB.comで導入直後にアウトとされた動画をご紹介します。
【ケース1】ダーティーなスライディング
導入直後の16年3月20日のスプリングトレーニングでの一幕です。
思いっきりベースを通過し接触していますから新規則に則りバッターランナーもアウトが宣告されています。
では、どこまでなら許されるのかという例も見ていきましょう。
【ケース2】クリーンなスライディング
Is this a clean or dirty slide? ? pic.twitter.com/ZN2aUm45mn
— Baseball Bros (@BaseballBros) 2019年4月5日
今年4/4に行われたヤンキース対オリオールズでのプレーです。
ヤンキース2Bのウェイド選手がオリオールズ・ジャクソン選手にふっ飛ばされる形となりました。
絵面としてはかなり危なそうなプレーに見えますが、規定のスライディング要項は全て満たしておりルール内と判断されています。
その後のインタビューでふっ飛ばされたウェイド選手本人もそんな事を言っていました。
さて、それではグレーな例も見ていきましょう。
【ケース3】グレーなスライディング
18年5月28日に行われたカブス対パイレーツでのプレー。
無死満塁でショートゴロ、ホームゲッツーの場面。突っ込んできたサードランナー・リゾー選手がキャッチャー・ディアス選手の足を刈るようなスライディング。
体制を崩したディアス選手の送球は逸れ、走者一掃となりました。
パイレーツ側はビデオ検証を要求しましたが、覆らず……という一幕ですね。
ただし、これには後日談がありまして、MLB機構で試合を見直し規則が適用されるケースだったとの見解を示しています。
一方でカブス側(監督)は「違法とはなったが、ダーティーなプレーではなかった」と今後もその解釈でプレーしていくと語りました。
MLB側から公式見解が出ている為、黒と言えば黒ですが、一時は審判も流しているプレーであるため、どうやらMLBではこの辺りが境界線となっているようです。
規則の範囲は出ていないようにも見えますが、捕手とランナーの位置関係的にどうやっても避けられそうにないので個人的にもアウトかなというかアウトにしてくれと思います。
まとめ
本当は日本のルールも詳しくやっていくつもりだったのですが、思いの外長くなってしまったのでここで一度まとめます。(また機会があれば別記事として続きを)
今回のテーマ【先日のビヤヌエバ選手のケースはMLBでは「当たり前」なのか「禁止」なのか】に関しては「当たり前」が優勢となりそうです。
例として紹介した【ケース2】と近いものを感じます。
ここからは蛇足となりますが、なんというか根底にある考え方と、元々の背景が違いすぎするんですよね。
日本人メジャーリーガーであり、Twitter芸人としても名高いダルビッシュ有選手は2016年にこんな事を言っています。
@baseballstation そもそも併殺崩しはルールの範囲内で送球をはじめとしたプレーを乱すためにあるものですから妨害には当たりますが、ルール内での守備妨害には当たりません。
— ダルビッシュ有(Yu Darvish) (@faridyu) 2016年4月6日
「簡単に言いますと結果的には妨害のように見えますが「悪質」な妨害でないスライディングは回避可能と審判団が判断するのでルール内での妨害には当たらないということです。」
野手の送球を乱した時点で妨害にあたるでしょうという問いに対した自分のリプ。わかりやすすぎじゃないか?
— ダルビッシュ有(Yu Darvish) (@faridyu) 2016年4月6日
勿論、この考え方に反対する声も多いようですし【ケース3】でパイレーツ側は「私達はもうオールドスクールにはいない」と反論しています。
ダルビッシュ選手の考え方であっても【ケース3】はアウトでしょうか。セカンドのケースと違い、捕手がランナーをどうやっても視認できませんから……。
ともかく、MLBではルール内のスライディングで避けれる範囲であればベースボールの範囲内という見方が優勢のようです。
一方NPBでは「併殺崩し」そのものを否定的に捉える意見が優勢となってきています。
それが悪いってわけではありません。個人的には、セカンドの避けて投げるって動作に芸術性を感じますし、MLB寄りの考え方ではありますが、そこの線引はNPBで独自に引けばいいと思っています。
ただ、日本で導入されたスライディングの新ルールってほぼMLBのルールを翻訳したものなんですよ……。
公認野球規則そのものがそういうものだから仕方ないっちゃ仕方ないんですが……
それでいて解釈に大きな差が出てくるのは、いかがなものかと思うわけです。
MLBの背景に合わせて作った規則であっても喧々諤々の議論となるのですから、それをそのままNPBに持ってきたらそれ以上の混乱を来すのは避けられないのは当然でしょう。
全てを同じにしなきゃいけないわけでもないのですから、独自の規則としてもう少しわかりやすいものを作っても良いように思うのですが、ホームコリジョンといいイマイチこれっていうものを作れていないのが現状です。
唯一作ったのは、ボークでの二段モーション規定でしょうか?大失敗でしたね。
ですから、現状なんとなく選手達が歩幅を調整していくというか……
それを海外の選手に日本に来たらさっさと理解しろってのは、中々乱暴な話です。
原文ほぼ一緒で同一のルールのように扱われているというのは、全く違うルールであるより質が悪い。
寿司を作ってくれと言われたからカリフォルニアロールを作ったら否定されたみたいな話です。頼んだ側の油断が招く悲惨な結末でしょう。
なにが言いたいかと言えば、首脳陣は同じ名前のルールだからと油断せず日米の細かい違いをしっかりと理解しておいて欲しいと。そしてポイントを抑えた指導を……そんな結論で今回は終わりたいと思います。
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