パナソニック・吉川 Dバックスとの契約で連盟規定に抵触?

アマ球界が揺れている。

 

先日報道されたパナソニック・吉川峻平投手のDバックスとの契約に際しての登録規定違反。ネット上では、様々な意見が飛び交うが、結局何がマズイの?そんなに問題?と、事態の飲み込めない人も多いようだ。

 

そこで今回は、私の分かる範囲で争点をまとめていく。

いや、概要だけでいいからニュース記事を見せろよという人は、リンクを参照して欲しい。
【ソース: スポニチ(パナ吉川、Dバックスとマイナー契約していた)

登録規定違反・概要

今回、パナソニックと吉川峻平投手が抵触したのは、日本野球連盟(JABA)の定める登録規定というもの。

具体的には以下の2つのルールである。

  1. 登録規定第15条1項
    競技者は、日本プロフェッショナル野球組織が行なう選択会議の日から翌年度の都市対抗野球大会の終了の日までの期間、プロ球団と交渉することはできない。
  2. 登録規程第22条2項
    加盟チーム競技者がプロ球団と契約を締結する場合は、その締結日以前に退部し、速やかに登録抹消届を提出しなければならない。

わかりやすく言えば、都市対抗野球前の接触禁止とプロ契約前に退部するというルールを破ってしまったわけだ。

過去にもあった同様の規定違反

そもそもこんなルール必要?行きたいならいかせてやれよ

なんて意見もあるようだが、それについては後で言及するとして……

 

実は同様の問題は2013年にも起こっている。

当時、エディオン愛工大OB BLITZに所属していた沼田拓巳投手が、退部せずにドジャースと契約を結び、連盟からの除名処分を受けた。

【ソース: 大リーグ契約の19歳沼田投手を除名 日経新聞

 

違反が22条1項の一つだったこと、チームに無断で選手が契約を結んでしまったことと違いはあるが、大筋は同じだ。

今回、吉川はチームに報告していたという部分を好意的にとれば、悪質性は低いとも言えるが、それでいて過去にあった違反を繰り返し、更に15条1項まで抵触してしまったという事実は前回以上にお粗末だ。

 

ちなみに、その沼田はドジャース傘下のチームで3年間プレーしたが、残念ながらメジャーには上がれなかった。その後、日本の独立リーグに移り、2017ドラフトでヤクルトスワローズに指名されている。

これにもまた田澤ルールなんてルールが関わってくるのだが、今回は割愛する。

JABAの登録規定は、なぜ存在するのか

さて、ようやく今回の本題。

このルールは一体誰のために、何のためにあるのだろうか?

 

結論から言えば日本アマ球界(JABA)と日本プロ球界(NPB)の為のルールである。いや、そう言ってしまうと少し語弊があるだろうか。

 

プロアマの確執やら関係改善の歴史、なんかは脇に置いておくとして、

アマ野球が公平な運営をするためのものであるのと同時に、NPB12球団が無茶苦茶せずにドラフトを成立させるためのルールと言える。

 

現在、NPBで日本人選手がプレーするためには、一度ドラフトを経由しなくてはいけない。しかし、過去にはドラフト外での入団が認められていたり、ドラフト制度そのものが穴だらけであった。

 

その時に何が起こったかと言えば

ドラフト拒否してドラフト外入団してしまったり、そのためにあちこち手を回して球団が選手を囲い込んだり……有名な江川の空白の一日があったりと、そりゃもう色々起こった。

 

そんな経緯を辿って、現在は雁字搦めにルールが決められている、というわけだ。

 

つまり「こんなルール必要?」という問には「必要」と答えるのが妥当だろう。なければドラフトなんて成り立たないのだから。

日米間には明確なルールが存在しない

混乱している人の多くは、これをMLB移籍に関わるルールだと考えている節がある。が、あくまでこれはローカルルールであり、MLBとの間に明確な取り決めは無い。

 

一応は「紳士協定」と呼ばれる「お互いのドラフトを尊重する」なんて約束をしているのだが……実際には「お願いだからこっちのルール守ってね」「善処する」程度の約束とも言えないお願いであるらしい。

 

ルールとは、約束事とそれを破った際のペナルティがセットになって初めて効力を発揮する。しかし、アマ選手の移籍について、日米間には約束とセットとなる罰則がない。

 

ドラフトとはまた違う話になるのだが、数年前に問題となった新人選手の契約金問題を覚えているだろうか?

多くのドラフト上位選手が、12球団で申し合わせる契約金の上限を超えた額を受け取っていたという問題だ。

あれも罰則なしの「紳士協定」と呼ばれるルールであった。

結局、罰則も決めていないし、何処も同じような事をやっていたということで明確なルールを作って再発防止はするが、過去の分はお咎め無しで決着している。

つまり、紳士協定ほど当てにならないものは無いのである。

 

他にも「日米間選手契約に関する協定」なんてものもあるが、ほぼポスティングについての取り決めである。

申し訳程度にアマ選手についても触れてはいるが、日本国内においてプロとアマのスタンスが違うということもあって実行力は皆無だ。

 

となれば、今回の問題は国内での問題であってMLBがどうのという訳では無い。MLB側にしてみれば大した意味はなく、パナと吉川投手に対しては効力を発揮する。

結局の所、単純にパナソニックと吉川投手が、あまりにも脇が甘かったということになる。

 

勿論、それを無視したDバックス側の責任を問う声があるのもわかる。しかし、あくまでローカルルールなのだ。罰が無ければ破っていいわけではないが、そもそも守ると同意しているかどうかすら怪しいのである。

(田澤問題の際に日米間の紳士協定の存在を否定する声もあった)

まとめ パナ・吉川側の甘さと日本野球界の弱さ

今回の騒動、ポイントは以下の二点

  1. パナソニックと吉川投手側の甘さ
  2. 日米間に明確なルールを作ることのできない日本野球界の弱さ

パナと吉川投手の落ち度は論ずるまでもなく、認識の甘さにある。海外移籍がどうのではなく、プロ契約に対するルールへの理解不足だ。

といっても選手個人で把握するのは厳しく、吉川投手はチームに相談していたと言うからチームに大きな責任があるだろう。

 

そして今回の騒動云々よりも今後の野球界のために大きな問題として捉えなければいけないのが、日米間でのルールについてである。

現状、MLBに対して日本国内でのスカウト活動や様々な関係性を担保に、国内のルール遵守をお願いしているような状況だ。

 

が、考えてみて欲しい。MLBは国交の無いキューバからでも選手に亡命までさせて獲得できる力がある

いつまでも「関係性を崩すような真似はしないよね?」なんてあやふやなルールでうまくいくわけがない。むしろ、関係性が崩れてやりたい放題された場合、困るのは日本側である。

MLBにしてみれば日本球界との関係が良い事に越したことは無いだろうが、例え悪くなったとしてそれ程困ることは無い。

 

だからこそ、できる限り明確なルールを早期に日米間で作らなければいけないだろう。

MLBとして関係性が崩れて困ることは無いとは言っても、良好な状態を保ったまま納得の行くルートが確保できるのならばそちらを選択するはずだ。

要はメリットとデメリットの問題であって、現状日米間のそのバランスは崩れつつある

 

日本側がMLBに対して提示できるメリットが少ないことから非常に難しい問題ではあるが、既にそんな事を言っていられる状況ではないことをもっと深く認識するべきだ。

例えば、FA期間の短縮だとか外国籍の拡大・撤廃を条件に交渉したり、韓国や台湾などMLB以外のリーグとの関係性を強化して国際的な選手獲得ルールの検討をするなど、様々な可能性を探らなければいけない。

 

本来はこれを田澤問題が起こった時にやらなければいけなかった。それを、NPBへの復帰制限をかけるという国内完結のルールでお茶を濁し、満足してしまった日本野球界は罪深い。蛇足ではあるが、あのルールで得をする人間が思い当たらない上に、国内野球ファンへのイメージ低下を考えればさっさと撤廃するべきだろう。

 

また、MLBでは以前から、日本や韓国などのアマ選手を含めた国際ドラフトの導入を検討しているという。選手会の強い反発もあって、難航しているようだが、そのうち実現させるだろう。

 

その時、今のような状態であれば……日本球界は悲惨な結末を迎えるのではないだろうか?

勿論、MLBで日本人選手が活躍することについては大賛成だ。

「行きたい選手は行かせてあげよう」というのも心情的には理解できる。

 

が、それで日本野球界が混乱し衰退しても構わないとまでは思えない。

なんとか、日本野球界が生き残る道を見つけつつ、多くの人が納得できる形で世界へ挑戦できる形を作ってもらいたい

 

非常に長くなってしまったので今回はこんなところで終わるとして、次回また日米間の選手獲得について書いていく。

意見やコメントがあれば、コメント欄でもTwitterでも気軽にして欲しい。

 

それではまた次回。

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