巨人の小林誠司に異変が起きている。
なんと現時点でセ・リーグ打率トップ! (4/28日現在)
昨年の今頃は「せめて身長くらいの打率を……」なんて言われていた、あの小林が……である。
彼が首位打者の位置に一度でも立つ事が有るなど一体誰が予想したであろうか?
恐らく誰一人として予想していなかったはずだ。
こんな大事件が起きてしまったら小林について分析しないわけにはいかないだろう。
そんなわけで今回は、小林誠司に起こった異変について、データを交えて分析していきたい。
小林誠司の基本情報
年度 | 試合 | 打席 | 打数 | 打率 | 安打 | 本塁打 | 出塁率 | 長打率 | OPS |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2014 | 63 | 121 | 110 | .255 | 28 | 2 | .305 | .373 | .678 |
2015 | 70 | 204 | 177 | .226 | 40 | 2 | .312 | .294 | .605 |
2016 | 129 | 458 | 398 | .204 | 81 | 4 | .276 | .269 | .544 |
2017 | 138 | 443 | 378 | .206 | 78 | 2 | .285 | .257 | .542 |
2018 | 23 | 74 | 62 | .371 | 23 | 1 | .459 | .452 | .911 |
小林誠司 1989年生まれ(28歳)
捕手 右投右打 プロ5年目
昨季はゴールデングラブ賞も獲得した強肩堅守の守備型捕手。
また、WBCでの大活躍によって一部では「世界のKOBAYASHI」とも呼ばれる。
高い守備評価とは裏腹に、昨年まで打撃の面で結果が出ず、攻撃型捕手・宇佐見の台頭やオフに4名の捕手を獲得したことで正捕手の座を脅かされる。
今季はオープン戦での打撃不振も響き、開幕マスクの座は守ったものの、新人捕手・大城との併用という形で開幕を迎える。
その後、リーグ打率トップに立つほどの大爆発を起こして、一度は手放しかけた正捕手の座を再び手繰り寄せている。
小林誠司のイメージ
失礼ながら個人的には、平均以下の打撃能力が足を引っ張り、近い内に誰か他の捕手に取って代わられる存在だと思っていた。
名捕手にして名監督として知られる野村克也氏が語っているように、捕手の第一条件は「肩が強いこと」である。
リードやキャッチング、その他捕手としての技術は後付できるが、肩の強さだけは努力でどうにかなるものではないからだ。
その点では、小林は文句なく捕手としての条件を備えていた。
また、正捕手としてマスクを被り始めた2015年当初には批判の多かった技術的な部分に関しても、与えられたチャンスの中で一つずつしっかりと身に付けていった。
だが、如何せん打撃が向上せず、正捕手の座も長くないな……と思ったのは私だけではないはずだ。
確かに、捕手は守備が出来てなんぼではあるのだが、肩の強さを第一条件と定義するのであれば、肩が強い他の選手でも構わないということにもなる。
勿論、今すぐにポスト小林として機能するはずは無い。
同じ様に肩が強く、打撃の光る選手に経験を積ませれば、ある程度守れて、打てる選手になってくれるだろうという皮算用の元の考えである。
実際、阿部にしろ小林にしろ正捕手に就いた当初、技術面での指摘は多かった。
それを経験を積む内に一つずつクリアしていったのだ。
だから、このまま大城との併用が続いてしまえば、大城が小林の上位互換となってしまうであろうことはある意味当然の帰結であると言えた。
しかし、それをものの見事にひっくり返したのが現在の小林誠司だ。
WBCで見せた「世界のKOBAYASHI」の姿やオールスターでのホームラン、はたまた昨年8月には宇佐見が活躍しだした途端5戦で打率.462(13-6)のプチブレイクなど、その予兆は確かにあった。
どれも短期の確変ではあったが故に偶然・奇跡・珍事で片付けられてきたが、追い込まれると何か吹っ切れたように活躍するのが常であり、とにかく不思議な選手という印象を持っていた人も多いのでは無いだろうか?
小林誠司の爆発の根拠 <意識の変化>
さて、前置きが異常に長くなってしまったが、とにかく小林は毎度毎度追い込まれるとその真価を発揮する。
いや、真価というより最早、進化である。
昨年に比べ5割程向上した、ここまでの各種成績は「まぐれ」や「奇跡」等で片付けるには行き過ぎている。何かしらの根拠が無ければここまでの数字は残らない。
勿論いくつかの幸運が重なって、その下地として根拠があるのではあろうが、我々ファンにとってはその根拠こそ大事にしたい要素だ。
ここからはデータを交えてその根拠について考えていきたい。
今季はとにかくハードヒットが増えた
年度別打球強度割合
hard% | middle% | soft% | |
2014 | 28.6 | 54.8 | 16.7 |
2015 | 31.2 | 40.6 | 28.3 |
2016 | 30.6 | 44.2 | 25.2 |
2017 | 26.9 | 48.2 | 24.9 |
2018 | 44.2 | 44.2 | 11.5 |
これは小林の打球割合を強さ別に示した表である。
hard > middle > soft という感じでイメージしてもらいたい。
ここから分かるのは、昨季に比べハードヒットの割合が増えたという事である。
昨季の小林誠司は、ハードヒットの割合はわずか26.9%とNPB(規定打数クリア者)で最も少なかった。
これでは飛距離も無ければ驚異的な足も無い小林では、率が残らないのも当然だろう。
今季ハードヒットの割合を約1.6倍と大幅に伸ばしたことで内野の間を抜ける安打が多くなり、結果として率が残っていると考えられる。
それを裏付けるデータを次に示したい。
打球方向と安打率
2017-2018打球方向別安打傾向
左 | 中 | 右 | 内野安打 | |
2017 | .169 2本 (160-27) | .209 0本 (148-31) | .303 0本 (66-20) | .029 0本 (239-7) |
2018 | .478 1本 (23-11) | .148 0本 (27-4) | .889 0本 (9-8) | .000 0本 (31-0) |
これは小林の打球方向と、その打率である。
小林は右打者であるから左が引っ張り方向、右が流し方向となる。
昨季までの小林の印象的な安打の殆どは右方向へ綺麗に流す当たりであった。
その反面、引っ張った場合やセンター方向へ素直に合わせた打球は凡打の割合が非常に多かった。
当てるだけ、合わせるだけのバッティングにやきもきとしたファンも多かったことだろう。
それが今年は引張方向への安打割合が増えているのだ。
これは前述のハードヒットが増えた為に内野の間を抜けているという事の裏付けであろう。
では、なぜ強い打球が増えたのか?次の表を見て欲しい。
積極的なスイング意識
年度別スイング率
年度 | スイング% |
2014 | 48.8 |
2015 | 46.1 |
2016 | 41.2 |
2017 | 41.9 |
2018 | 47 |
これは年度別のスイング率を表した表である。
全投球に対してどれだけスイングを試みたかという数字だ。
年々スイング率が低下していき、スタメンマスクを被り始めた2016辺りには底を打った印象だ。
そして今季からまた積極的なスイングの姿勢が数字に現れている。
さて、これを念頭に置いて次の表を見てもらいたい。
年度別ゾーンスイング率
年度 | Bz% | Sz% |
2014 | 38 | 63.2 |
2015 | 34.5 | 60.6 |
2016 | 26.7 | 59.3 |
2017 | 27.5 | 60.1 |
2018 | 35.7 | 60.3 |
これは先程のスイング率を更にストライクゾーンとボールゾーンのスイング率に分けたものである。
Bzがボールゾーンのスイング率、Szがストライクゾーンのスイング率である。
ほぼ変わらないストライクゾーンのスイング率に比べてボールゾーンのスイング率が上がっている。
一見、2017までのスイング率の低下は小林誠司の成長そのものであり、2018の数字は退化してしまったような印象を受けるかもしれない。
しかし、私は正にこの数字が今季の小林爆発の根拠であると思う。
スイング率単体で評価するのであれば、確かにボールゾーンは振らない方が高評価である。
だが、結局は安打になるか否かが問題なのだ。
例えば、2017シーズンで最もボールゾーンのスイング率が高かったのはDeNA・ロペスの41.5%である。
しかし、彼は3割を超える率を残した優秀な打者だ。
また、反対にスイング率が一番低かったのは阪神・鳥谷の12.3%である。
最近の鳥谷については色々と意見のあるファンも多いだろうが、それでも数字としては中々な物をしっかりと残している。
つまり、その打者に適したスタイル、最適なバランスは何かということが大切であると言えるだろう。
周囲に打撃を不安視されていた小林ではあるが、本人にもその自覚はあったのだろう。
いや、周囲の声が気になっていたというのが正解かもしれない。
とにかく、当然と言えば当然であるが、本人はそこを自覚していた。
昨年、一昨年と小林は出来ることをやると常に言っていた。
それは、打席で少しでも粘ることだったり、バントであったりとそういったチームプレーと呼ばれる部分であったのだと思う。
その意識がボールゾーンのスイングを極力へらし、一打席一打席を慎重に臨むということに繋がった。
だが、そういった努力が必ずしもいい結果に結びつくとは限らない。
粘ることを前提とした結果、積極性は薄れ、狙うべき球を逃して追い込まれる。
そして厳しくなったカウントから凡打を繰り返す悪循環に嵌ってしまったのではないだろうか?
それを示す数字が次の表だ。
ファーストストライクへの意識
年度別バッティングカウント
年度 | 打数 | 0s | 1s | 2s |
2014 | 110 | 30 | 26 | 54 |
2015 | 177 | 36 | 50 | 91 |
2016 | 398 | 76 | 106 | 216 |
2017 | 378 | 79 | 96 | 203 |
2018 | 62 | 19 | 12 | 31 |
年度 | 0s | 1s | 2s |
2014 | 27% | 24% | 49% |
2015 | 20% | 28% | 51% |
2016 | 19% | 27% | 54% |
2017 | 21% | 25% | 54% |
2018 | 31% | 19% | 50% |
これは打席の中でどのカウントで有効な打撃を記録したかを示す表である。
0sはノーストライクでの記録数、1sは1ストライク取られてからの記録数となる。
一つ目は打席数で、二つ目はそれを%に直したものである。
あくまで有効な打撃(安打を含む全てのインプレー打球と三振)であるから、細かいスイング率等とは異なる。
しかし、一定の指標にはなるだろう。
パッと見ただけでも初年度から年々、というか2015には底を打った感じで初球への積極性は失われている。
その結果どうなったかと言えば
2017バッティングカウント別成績
カウント | 打数 | 安打 | 率 |
0s | 79 | 19 | 0.241 |
1s | 96 | 28 | 0.292 |
2s | 203 | 31 | 0.153 |
こうなった。
ストライクカウントが一つ増えるごとに打率が2分落ちると言われているが、まぁとにかく追い込まれると苦しくなるのは当然だろう。
ちなみに今年(2018)は、ここまで何の参考にもならないレベルで打っているのだが、一応載せておく。
2018バッティングカウント別成績
カウント | 打数 | 安打 | 率 |
0s | 19 | 8 | 0.421 |
1s | 12 | 5 | 0.417 |
2s | 31 | 10 | 0.323 |
とはいってもやはり追い込まれると打率は下がる……。
いやその状態で3割超えているのはどうなのという話ではあるのだが……。
ともかく、ボール球を振らないという事は基本ではあるのだが「薬も過ぎれば毒となる」.
ボール球を振らないとするあまりに積極性を殺しすぎてしまったスタイルは、完全に小林の壁となっていたと考えられる。
小林誠司の爆発の根拠 <技術の進化>
3球勝負で終わらない、粘る技術が上がった
2ストライク後のバッティングカウント
年度 | 打数数 | 0B | 1B | 2B | 3B |
2017 | 203 | 37 | 80 | 46 | 40 |
2018 | 31 | 2 | 14 | 13 | 2 |
年度 | 0 | 1 | 2 | 3 |
2017 | 18% | 39% | 23% | 20% |
2018 | 6% | 45% | 42% | 6% |
先程のバッティングカウントに関する表を今度は2ストライクに追い込まれた場合に注目してボールカウント別に分けた物である。
昨季は2-0でそのまま決着つく割合が高かった。
全体の約1割で2-0でのバッティングを強いられていたのだ。
2ストライクとられた時点で打者が不利になるのは確かだが、同じ2ストライクでも2-0と2-3では、大きく代わる。
2ストライク後のバッティングカウント別安打割合(2017)
カウント | 打数 | 安打 | 率 |
2s0b | 37 | 3 | 0.081 |
2s1b | 80 | 11 | 0.138 |
2s2b | 46 | 6 | 0.130 |
2s3b | 40 | 11 | 0.275 |
カウント2-0は極端に厳しい。一目瞭然である。
そして今年は、その2-0というカウントを大幅に減らしている。
ボール球をスイングする確率は上がっているのに……だ。
大前提として、単純にこれだけ当たっている打者に三球勝負を仕掛ける馬鹿はいないというのは一旦置いておいて、これは積極的なスイングが投手に警戒心をもたせている事や、追い込まれてからのカット技術が上がったという事の現れでもある。
脇に置いた大前提が強すぎるのでその関連の数字をもう一つ出しておこう。
苦手なコースを上手く避けている
< 2017 >コース別バッティング割合
< 2018 >コース別バッティング割合
今年は見事に極端な……
と、見てもらいたいのはそこではない。色分けまでしておいて、何を言ってるんだという気もするが、そこではないのだ。
今季全くインコースが打てていない事などではなく、打てないインコースで終わっていない事に注目して欲しい。
今季の小林がインコースを安打に出来ていないことは、当然相手バッテリーにも分かっているし、当然そこをついてくるはずだ。事実、観戦していると中々の割合でインコースに放られている。
しかし、今季インコースで打席を終えたのはストライクゾーン内の勝負で打席を終えた全53打席中、わずか7打席(13%)である。
昨季は290打席中70打席(24%)であることからも今季の小林は打てないインコースを意図的にカットや見逃しで逃げることが出来ていると言えるだろう。
つまり、意識の面だけではなく技術の面での成長も結果として数字に現れているのだ。
まとめ
小林誠司大爆発の根拠は
・追い込まれた後にもカウント有利な状態へと粘る、待球だけではなく技術が上がった
・その結果、強い打球の割合が増え打率が上昇している
端的に表現すればこんな形にまとめられるのだろう。
事あるごとに阿部慎之助と比較され、打てない捕手、自動アウト等と揶揄された。
それでも驚異の盗塁阻止率もあって、スタメンマスクをかぶり続けた。
批判を浴び続ける不安定な安定の中に立たされ続けたのである。
その中で自分なりに出した結論が、出来ることをやるという選択だったのだろう。
その選択自体は間違っていなかったと思う。
元々打撃に定評のある選手ではないのだから、なんとか批判に打ち勝つ術を見出そうすれば、まずは目先の出塁であったり球数を放らせるなり、そういった結果を求めるのも当然だ。
問題があったとすれば、そのスタイルは致命的に小林誠司と相性が悪かったということだろう。
そしてその選択が不運にも小林の壁となっていたとすれば、WBCやオールスターのようなある種開き直れるような舞台では結果を出したというのも必然だったのかもしれない。
実際、開き直るしか無いような場面、シーズン中であっても例えばライバルが台頭してきたり、監督直々の指導を受けたりと崖っぷちに立たされた場合の小林は結果を残していた。
今季も正捕手の剥奪という崖っぷち……いや半分崖下に落とされたような中での爆発だ。
となれば、再び正捕手という安定の中で元に戻ってしまわないかということが今後の小林誠司の課題となるだろう。
今の数字は、贔屓目に見たとしても出来すぎている。
根拠となる成長や進化に加えて、幸運やその他の要因がいくつも積み重ならなければ達成できない数字だ。
今後、小林に対して他球団も本腰をいれて攻略してくるであろうし、不運が重なる時もあるだろう。
つまり、この数字は間違いなく落ちる時が来る。
しかし、これまでと違い実績ができたことや、積み重ねてきた努力による培った技術があるのだから乗り越えられるはずだ。
長打力が高い訳ではないから、打てる捕手の代名詞でもある阿部慎之助や城島健司、古田敦也の様な選手にはなれないかもしれない。
だが、打てない捕手という汚名さえ返上できれば、強肩堅守の名捕手として広く認知されるに違いない。
まずは今シーズン1年を通して活躍できることを期待して、今回はこの辺りで終わりたいと思う。
☆参考サイト☆
・スポナビ https://sports.yahoo.co.jp/
・データで楽しむプロ野球 http://baseballdata.jp/
・1.02 ESSENCE of BASEBALL http://1point02.jp/op/index.aspx
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