【FAの話】選手の権利は言わば球団権利の消失である

FAの話をしよう。

広く使われる意味でのFA(フリーエージェント)では無く、日本プロ野球界で使われる制度としての話だ。

今オフはファン同士の感情のぶつかり合いが思った以上に荒れてしまい、この話題はちょっと避けといたほうがいいかな~なんて思ったりもしたのだが……

しかし、ここまで荒れる以前に下書きを終えてしまっていたわけで……つまり勿体無いじゃないか!

ということで少しばかり選手が去る側のファンの方には、面白くない話になってしまうが、興味があればお付き合い願いたい。

FAはフェアじゃない?

今オフは西武の浅村が楽天へ、西武・炭谷、広島・丸が巨人へ行き、オリ西が阪神へと総勢4名のFA権行使による移籍が行われた。

チームの主力が移籍してしまうのだから、所属球団のファンから悲しみや移籍先球団へのバッシングは当然おこる。

しかし、どうにも最近は、その奥底にあるFAに対しての考え方にひどい偏りがあるように思える

 

怨嗟の声は聞いていて気持ちの良いものではないが、各個人とそれをうける当人たちとの問題であるから脇に置くとして問題はFAはフェアじゃないという声だ。(※どうにも行き過ぎた行為もあるようで、そちらに関しては球団で然るべき対処を取ることも必要かもしれない)

 

確かに球団間のやり取りのみに着目すればフェアでは無い。

主力選手の去った見返りが、多少の金銭と外国人・プロテクト選手28人を除く選手の中から一人を選択する人的補償ではバランスなど取れるはずが無いのだ。

だが、FAをイーブンにする、またはできる限り近づける必要があるのだろうか?

「選手の権利」と「球団の権利」

抜け落ちた言葉の過程

FA権は「選手の権利」と良く言われる。

この一言に様々な意味が凝縮されていることもあって、もう本当に便利に使われる。この言葉一つが一種の「そもそも論」のように、それ以上の議論を許さないパワーを持っているのだろう。

そのため、そこに至る過程をすっ飛ばし使われてしまう。

それ故「選手の権利」が正しく理解されていない部分も多く、極端に言えば「ワガママの延長」の様な理解のされ方をしてしまっている節がある。

 

これが一般のファンによるものだけであれば、特別驚くこともないのだが、一部の野球解説者や評論家、メディアなどからも「それはちょっとどうなの」という声が出てしまうから困りものだ。

選手の権利」を論じるのであれば、対になる「球団の権利」を絡めて考えるのが筋だろう。

 

異常に強い「球団の権利」から考える

野球界は他の様々な業界と比べて、異常なほど「球団の権利」が強い

球界への入口は、選手個人の希望をほぼ無視する形のドラフトのみに限定され(外国人枠は例外)、更に保留権という球団権利で最短8年間、選手の自由は拘束される。

一応毎年の契約更改では双方協議の元、条件は決められるものの実際問題そこで折り合わずに他球団へという選択肢は無い。

いくらゴネたところで選手のとれる選択肢は野球を辞めるか条件を飲むか、二つに一つである。

他にも2002年には法廷闘争にまで発展した肖像権問題(2010年に選手側敗訴)など、野球会は球団が選手に対し常に強いイニシアティブを握っているのだ。(肖像権問題について詳しくは選手会HPなどで確認して欲しい)

 

書き出せば書き出すほどその異常さが浮き彫りとなる「球団の権利」だが、その根底には戦力均衡化や野球界の知名度向上など「リーグ全体としての利益」が存在する。(つまり「球団の権利」は言い換えれば「球界の権利」となる)

それ故、ある程度は致し方ない部分もあるだろう。

だが、あくまである程度なのだ。

どこで線引きするかはまた別の問題であるが、そこを超えれば「リーグ全体の利益」を盾にとり、選手に極端な不利を強いていると言っても過言ではない。

そもそも選手の権利」など球界において殆ど無いに等しいのだから。

「選手権利」の回復と「球界権利」の消失

FA権は「リーグ全体の利益」を根拠とした「球界の権利」に対し、「8年以上の貢献」によって回復した一般的な権利に過ぎない

少なくとも日本であれば、どのような業界であれ持ってしかるべき個人の権利である。

 

言い換えれば「球界の権利」は「8年以上の貢献」によって相殺され消失したと言っても良い。

実際はFA権が導入されたのはつい最近のことだから、あまりにも選手が不利すぎると選手側が奮起し、球界へと認めさせた後付の制度ではあるのだが、制度の趣旨としては球団・球界権利と選手権利のバランスをとるために導入されたものである。

物語調に語るのであれば「球界のために不平を言わず貢献して欲しい、その代わり貢献し続けた暁には自由を用意しよう」と、そんな感じだろうか?

 

さて、そう考えるとFA権の行使に対し、球界バランスや球団同士の公平さを強く求めることはどこかおかしくないだろうか?

選手は既に8年以上の球界への貢献という対価を支払っており、そこに「球界の利益」が口を挟む余地は無いはずだ。

それでは話が降り出しに戻ってしまう。

 

勿論「リーグ全体の利益」が著しく損なわれ、是正するのもやむ無しとなれば議論の必要はある。

しかし、これ以上明確な公平さを強調し、戦力均衡が図れる移籍に限定しようというのは移籍など認めないと言っているも同義であろう。

散々喚かれたドラフト権の譲渡だとか、人的補償の拡大のような限り無くイーブンに近いFAの形を求めるのはいくらなんでも行きすぎだ。

 

それが「FA権の行使による移籍」に影響が出ない形の案であれば問題はないが、公平さを求め、補償を厚くするなどすれば間違いなく足枷となる。

球団、球界権利と選手権利のバランスを取るために導入されたはずの制度が、再度球界のために割を食うのでは本末転倒というもので、まるで二重課税のような話である。

事ここに至っては「リーグ全体の利益」は二の次になって然るべきで、選手側としては既に対価を支払って手にしたFAが、フェアなFAなどというあり得ない制度に置き換えられて良いはずがない

 

選手にしてみれば、ようやく消失したはずの縛りが新たな形でかかるなどたまったものではないし、今ある補償ですらバランスが取れてるとは言い難いと選手会は人的補償の完全撤廃を求めているのが現状だ。

今のままでいいとは言わないが……

今のままで良いとは言わない。

また、補償の撤廃が厳しいのも事実であり、更には非常に危うい状況であることも確かだろう。

特定球団ばかりに選手が集まり、抜けていくばかりの球団が存在してしまっては、ファンによる不平不満が出るのも当然だ。

また、それなりの選手では権利を取得していても行使を躊躇う状況があるなんて問題もあり、何かしら打開策を検討しなくてはいけないことは間違いない

 

しかし、その方法を選手移籍に対しての対価に求める風潮には違和感がある

既に選手側は十分過ぎるほどの不利を受け入れており、選手側の利益を削る形で納めようというのはいくらなんでも球団本位、リーグ本位が過ぎる

少なくとも、フェアなFAなどを謳い文句に選手に負担を強いる事だけはするべきではないだろう。

 

もっと別の方向、例えば毎年20-30と移籍選手がでるような形にできれば、獲得する側と抜ける側にハッキリと別れてしまうことは無くなるし、過度なマネーゲームを避ける事にも繋がるだろう。また、FA以前の選手補充や選手流動化の制度を整備し、戦力の均衡化を獲るような方法を検討するのもいいかもしれない。

個人的には時期尚早と考えているが、贅沢税などのサラリーキャップによる手法も考えられる。

どの案も多くの問題を抱えているが、なるべく広く視野を持ち、可能性を探ることで見えてくることもあるだろう。

 

近年はネットの普及による影響か、刹那的で限定的な話題がワッと盛り上がり、良く良く考えれば無理筋な話も本当に取り入れられてしまったなんて状況が、現実的に起こり得る。

ファンの戯言と好き勝手に盛り上がるのも構わないが、その声が届いてしまい選手個人が必要以上に圧迫されてしまう可能性は考慮する必要もあるのではないだろうか?

特に一部のメディアや大衆受けばかり狙う解説者には、もう少し深く考えてもらえないだろうかと感じてしまう。