新年一発目のブログは何にしようと悩む。
阪神の新外国人マルテをはじめ、レイビン・クック・マッガフと新外国人選手の記事も途中、先日のFAについての話ももう少し書きたい。
他にも春季キャンプのページの充などなど色々やりたいこともある。
あるのだが……新年一発目にはどうよ?と……
そんな事を思っていたら、新年早々「菊池雄星マリナーズ入り」のニュース!が飛び込んできた。
これで最初のテーマは決まった。
てことで、今回は「菊池雄星の変則七年契約」について
菊池雄星のポスティングについて以前取り上げた記事


菊池雄星、マリナーズと変則7年契約で合意
[1日 ロイター] – 米大リーグ(MLB)の公式サイトは、プロ野球の西武からポスティングシステムを利用してMLB移籍を目指していた菊池雄星投手(27)がマリナーズと4年契約で合意に達したと報じた。
関係筋によると最初の3年間は4300万ドル(約47億2000万円)で、4年目の2022年は1300万ドルで菊池側に選択権がある。ただし、4年目に関しては球団側が4年6600万ドルの契約延長に置き換えることができ、その場合はトータルで7年契約となる。
【記事:ロイター】
さて、今回の菊池の契約、あちこちで異例や変則といった表現で報じられているのだが、一体何がそんなに珍しいのだろうか?
マエケンのメジャー契約が報じられた時にも思ったことだが、異例の中身を正しく理解できる米野球ファンへの記事をそのまま持ってこられても、米野球への知識が不足している我々日本のファンには理解が難しい。
(まぁとりあえずマエケンの時はネガティブで今回はポジティブっぽい程度には伝わるが……)
とりあえず現在分かる範囲で「異例・変則」の中身について考えていきたいと思う。
(※注)ここから先、憶測や付け焼き刃の知識がかなり入ります。
あちこちの資料を当たりながら「こうなんじゃないかな~」という話だということを念頭に置き、御覧ください。
そう遠くない内に出るであろう詳細を記した報道までのツナギだと考えていただければ幸いです。
菊池雄星 変則7年契約の内容
- ベースは3年契約(4300万ドル)に双方のオプションがついた複数年契約
- 球団側は3年目終了時に、翌年から4年間の契約延長(6600万ドル)オプションを行使することができる
- 選手側は上記の延長オプションを球団側が行使しなかった場合、1年の契約延長オプションを行使することができる
つまり最低でも4年総額5600万ドルの契約を確保し、球団が望んだ場合は最大7年1億900万ドルの契約となる。
さて、では結局どのあたりが変則なのだろうか?
まずは一般的な契約から見ていこう。
一般的な契約例と契約オプション
ベースとなる契約の複数年だとか出来高なんて話は必要無いだろうから、契約オプションとその契約例について。
契約オプションには様々な形があり、大きく分けると4つ。
それぞれオプション形態とその契約例については以下の通り。
チームオプション
球団側に選択権のあるオプション。
【契約例】トニー・バーネット(レンジャーズ)の場合
- 契約年数:2年(16年-17年)+1年の球団選択オプション
- 総年俸:350万ドル
- オプション:2年目終了時に球団が選択権を持つ1年400万ドルの延長オプション(オプションを行使しない場合、25万ドルのバイアウトが付随)
例はチームオプションとして契約延長の権利を付け、複数年契約による金銭的リスクや編成リスクを排除しながら選手流出のリスクを軽減する形となっている。
チームの拘束力が強い反面、オプション行使の場合の条件設定は高めに設定される事も多い。
プレイヤーオプション
選手側に選択権のあるオプション。
【契約例】田中将大(ヤンキース)の場合
- 契約年数:7年(14年~20年)
- 総年俸:1億5500万ドル
- オプション:4年目終了時に選手側に選択権のある契約破棄条項(オプトアウト権利)有り
例は現状選手にとって最高の形。
選手側から見た長期契約のリスクを、プレイヤーオプションの契約破棄条項(オプトアウト権利)によって排除すると同時に、最低7年間の安定した契約も約束されている。
相互オプション
球団と選手の双方の合意があった場合、行使されるオプション。
【契約例】ビリー・ハミルトン(ロイヤルズ)の場合
- 契約年数:1年(19年~)
- 総年俸:425万ドル+打席数による出来高100万ドル
- オプション:750万ドルの来季契約相互オプション付き(オプションを行使しない場合、100万ドルのバイアウトが付随)
オプションの行使には双方の合意が必要なため、チームオプションほど球団の拘束力は無く、翌年の条件設定も緩くなりやすい。
お互いあわよくばといった側面が強く、行使されるケースは少ない。
自動更新オプション
設定された条件クリアにより、自動で行使されるオプション。
【契約例】青木宣親(マリナーズ)の場合
- 契約年数:1年(16年~)
- 総年俸:550万ドル+打席数による出来高(最大150万ドル)
- オプション:480打席到達により来季契約(550万ドル)が確定する自動更新オプション
出来高のような形で来季契約が設定されている事が多い。翌年の契約条件が当該年の出来高によって上昇するなどの契約になっていることもある。(例:500打席達成で来季契約確定後、25打席ずつ来季契約条件を50万ドル引き上げていくような形)
その他
バイアウト条項
契約例から見るメリット・デメリット
代表的なものをいくつか書き出してみたが、これ以外にも、条件を達成した場合、チームオプションからプレイヤーオプションへと変わる形や自動更新へと変わる形など様々な形の契約が結ばれている。
いやはや、メジャーの契約は本当に複雑だ。
ともかく、これほど複雑な契約の根底にある選手・球団双方から見た複数年契約のメリット・デメリットについて考えると以下のようになる。
選手側から見た複数年契約
金銭的・環境的な安定が約束される
球団側から見た複数年契約
選手流出を防ぐと同時に、選手獲得交渉で他球団を出し抜く材料となり得る
非常に単純化した物となるが、この観点から大まかに先程のオプションを選手側メリットの大きい順に並べると
【プレイヤーオプション】>【自動更新オプション】>【相互オプション】>【チームオプション】
このような感じだろうか?(自動更新と相互はシチュエーションによって変わりそう)
そして球団側から考えるとこの逆になるだろう。
つまり、FA選手の獲得合戦では、ベースとなる契約条件にこれらのオプションを加えながら他球団を出し抜きつつ、リスクの取捨選択をして……なんて非常に高度なやり取りが行われているわけだ。
トップクラスの選手になるとプレイヤーオプションの契約例で示した田中将大のような形に落ち着く。
蛇足ではあるが、そもそもFA選手が少ない日本ではこういった複雑なものになりにくいのも納得できる。
菊池雄星「変則」7年契約と呼ばれる理由
前置きが非常に長くなってしまったが、ようやく本題の「どのへんが異例・変則なのか?」を考えてみよう。
一般的な契約例で見たように、チームオプションとして契約延長条項が付随する契約は決して珍しくない。
日本からMLBへと移籍したケースでも、例に挙げたトニー・バーネットの他に和田毅やオ・スンファンなどが同様のオプションを付けて契約している。
が、大抵は1年~2年の延長オプションであり、2年の場合であっても1年ごとに選択権が発生する形となっている。
今回のケースのように4年の長期、それも一度の選択で即4年の複数年が補償されるケースは見当たらない。これが一つ。
さらに、チームオプションが行使されなかった場合、プレイヤーオプションとして1年の延長オプションが付随されているのも珍しいようだ。
これら二つのオプション内容が、あまり例を見ない物であったために「異例」や「変則」と呼ばれたのだろう。その複雑さ故に解釈が分かれてしまうのも原因のようだ。
では、どうしてこんな契約を結ぶことになったのか、そこまでやって今回は終わりにしたいと思う。
変則7年契約は何故結ばれたのか
前提となる二つのポイント
さて、今回の菊池雄星のケースを考える時、二つ外せないポイントがある。
- 菊池の肩の故障歴は、今回の獲得レースでも不安視されていた
- 再建中のマリナーズは20,21年のワールドシリーズを睨み、そこまでの長期契約を望まない
まず一つ目のポイント
菊池の故障歴は度々話題に上り、長期契約のリスクは避けたかったのは確かだろう。
それでなくとも日本人投手の故障は多く、また近年はMLB全体で長期の大型契約による弊害も目立ってきている。
二つ目のポイント
マリナーズは今オフ、ロビンソン・カノの放出を代表に大規模なチーム解体と再建を断行している。ディポトGMによれば20年21年のワールドシリーズ制覇を目指しているらしい。
そのため、菊池に興味をもつ一方で、失敗した場合に動けなくなるリスクは避けたかったはずだ。
しかし、菊池雄星の代理人を務めたボラス氏は、ポスティング申請が決定した直後から1億ドル以上の大型契約を公言するほど強気の姿勢で望んでいた。
かたや興味はあるが、3年程度の契約でリスク回避を図りたい球団と、MLBでの実績0でありながら、その素質と左腕という希少性、27という若さを武器に大型契約を狙いたい選手サイド。
両者の落とし所として結ばれたのが、今回の変則7年契約であるのだろう。
変則七年契約の中から見える両者の思惑
球団にしてみれば、菊池が大活躍した場合オプション行使で結ぶことの出来る4年6600万ドル(年平均1650万ドル)の契約は一流のスターターに出す金額として決して高くない。
選手サイドとしてもベースは4年6600万ドルではあるものの最大で7年1億900万ドルと目標ラインに届く形にまとめられた。
大まかに言えばそういう事だろう。
選手側から契約破棄することができず、若干球団有利の条件には見えるが、もしチームオプションの4年延長が叶わずとも、プレイヤーオプションとして4年目の契約を確保しているのは、保険として非常に有用な物に思える。
だが、どうしても4年契約+3年のチームオプションではなく、3年+4年のチームオプションに1年のプレイヤーオプションを付けたという点が引っかかる。
ということでここからは完全に推測になる。
プレイヤーオプションがジョーカーとなり得る
単純な4年契約ではなく、チームオプションが行使されなかった場合のプレイヤーオプションによる1年延長オプション。もしかしたらこれは、一種のジョーカー的な役割を果たす可能性があるのではないだろうか。
プレイヤーオプションは多くの場合、田中の例に見るようなオプトアウト権利を加えることによる条件の加算や、打席数や登板数による条件クリアに伴うものが多い。
そうでなければ、単純にベース契約を1年増やした契約にすればいいだけなのだ。
だが、選手目線で見れば話が変わる。
というのも先の4年契約のチームオプションは非常に重く、相当な活躍をしなければ球団によるオプション行使は考えられない。
しかし、その判断を悩む絶妙なラインであった場合はどうだろうか?
それなりの活躍で、もう一年は残留が基本線も、四年となると……みたいな成績であった場合だ。
これが単純に4年+3年のオプションであればオフに通常通りの判断をすればいいだろう。ところが、菊池の契約では3年目終了時にチームオプションを行使しなければ、4年目の選択はプレイヤーに委ねられ、球団は流出リスクを抱えることになる。
3年目終了時であれば菊池はまだ29歳ということもあって、2年で2500万ドル程度なら十分狙えるなんて可能性もある。するとオプションは行使されず、FAとなるケースも十分考えられるだろう。
例えばオプトアウト権利を持つ選手の場合、行使をちらつかせ双方合意のもとに契約を結び直すケースがあるが、状況によってはこの謎のプレイヤーオプションはオプトアウト権利のように生きてくる可能性が考えられないだろうか?
(今オフで言えばドジャースのカーショーが3年9300万ドルの契約を結び直している)
実際には球団が先に行使できる延長オプションを保有しているため、契約見直しとまではいかない。が、3年終了時に流出リスクを考えた際、それならば+4年の延長やむなしに傾く可能性はあるだろう。
まぁこれは、私の違和感に無理やり理由付けしたものだから、蓋を開けてみれば1年毎に球団が選択権を持つチームオプションなんて可能性もある。
その場合、この話は根本から成り立たない只の与太話になるが、それはまぁともかく……
1年のプレイヤーオプションを単純な保険として見た場合でも、故障歴を不安視されながら、相当な好条件を引き出したと見てよさそうで、MLB進出に向けて上々のスタートを切ったと言って良いだろう。
次はぜひ、プレーで最高のデビューを見せて欲しい。
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